正直者は損をする


リチャード・ニクソン暗殺を企てた男 [DVD]

リチャード・ニクソン暗殺を企てた男 [DVD]


★★★☆3.5 30overには効く場面が多々*1、真面目な男サムの極めて真面目な行動が、独りよがりで身勝手な振る舞いのように見えてしまう。いや実際サムは身勝手なのだが、その言動を「自己チュー」の一言では片付けられない。サムの情けなさ、誰にも相手をされない不全感、その不全感からくるある指揮者への狂信的な想い・告白、孤独・・・サムのこのような「私」の問題は国家・社会へと向けられる*2・・。順応できないサムが悪いのか、順応できない者を産み出す国家・社会が悪いのか。どちらにしても最終的に「私」という「実存」に問題は回収される。


私たちの前に現れる「私」の問題を「私」たちはいかに考え、いかに処理していけばいいのか。 近代は続く。


暗く、寂しい、イイ映画です。

*1:サムが妻(ナオミ・ワッツ)にお金を持っていく場面、「じゃまた」とハグをするサム、ハグをしかえさない妻、その妻の愛のない表情・・・・辛すぎる。ショーン・ペンの演技はもちろんだが、ナオミ・ワッツもうまい。『21グラム』といいこの二人は相性がいい。

*2:国家・社会にしか、向ける場所がない、本来なら復讐すべき雇い主や妻には、その怒りの鉄槌は落とされない・落とせない。それが何よりサムが優しく真面目で人を愛したい、人に愛されたい普通の人間である、ということを証明している。 更に言えば、誰もいない妻と子供の家に唯一残された愛犬タフィをサムは「もう独りにはさせないよ」と射殺する、サム・ビッグという「私」はあの場面において既に死んでいる。それ以降ハイジャック未遂のニュース報道にさえもサム・ビッグという名は出てこない。社会にとってサムはsomeでしかなかった、ということなのか。